(施工安全管理について)

1.足場

1.作業しづらい足場の問題

組まれた足場の上で作業をしているときに

「作業しづらく組まれてしまっているな」ということがあります。

住宅事情で入り組んでいるような場所など仕方がない場合もありますが、
「これはひどい!」と思ってしまうときもあります。
 
建物を上の方から考えてみると、屋根と軒トイ、軒裏と続いていますが、
この付近は、仕様材料がそれぞれ違ったり色分けも多くなるため、
塗装時によりシビアになる部分が多くなるところでもあります。
この辺りは無理なく塗れる足場にセットされていると良いと思います。
何も考えずに下の方から単純に足場を組んでいってしまうと
結果としてここの辺りが複雑になってしまうことがあるので
「上を念頭に置いて組んでいくのがいいのではないかな」と思います。
 
サッシのシーリング撤去で考えてみても
足場が悪いと綺麗に撤去しにくいうえに時間も3倍位変わってきてしまい、
肉体と精神の消耗もより厳しくなります。
 
現場管理の方の中には足場をそれほど重要視していない方もおり、
できればきちんと理解してもらって「こういう風に組んでほしい」と
業者に説明をしてもらえているとありがたいなと感じます。
 
きちんと組まれた足場であれば
作業が無理なく丁寧に余裕を持って行えるという「心のゆとり」が
職人の中にも生まれ、長い目でみて職人寿命も延びると考えられます。
「その無理な状況(体勢)でも塗ってくるのが職人でしょ!」といったような
考え方をされてしまうと「職人不足の問題といっても致し方ないことだな…」
とすら感じてしまいます。
職人不足の中でどうやって職人を減らさないようにできるかと
私なりに考えると「作業しやすい環境を整えていく」ということが
最優先課題と思います。
2.法改正後の足場の問題
法改正がなされてから、以前よりも足場の作りがより複雑になって
おります。
「安全のために今までにはなかった部材があちこちについたことで
 移動がしづらくなった」といった声が私の周りの職人達からも
聞こえてきます。
 
追加された部材は、足場からの垂直移動を出来なくするためのもので
(事故を減らすのが目的)、これにより塗料缶の上げ下ろしは
以前より大変になりました。
 
20所帯ぐらいのアパート、マンションでしたら
昇降階段を各面に設けた方が安全に作業効率を上げられるのではと
思います。
3.安さを優先することの危険性
建設業だけの問題ではありませんが
デフレの影響で価格競争の激化が起こります。
別の業界ではありますが、2016年の軽井沢スキーバス転落事故は
とても痛ましい事故です。
事故調は「事故の背景には会社の安全を軽視した事業運営がある」と
指摘していました。
「この事故をきっかけに、国は85項目にわたる対策を実施し
 違反したときの処分や罰則を強化した」とありますが、
いまでも死傷者が出る重大事故は年間300件以上起きているそうです。
残念ながら、「表向きは法令を守り、安全対策を行っているように
見せかけながら、実際は不正を続けるバス会社が少なくないからだ」との
ことです。
(2019年1月15日放送「NHKクローズアップ現代+」より抜粋)
建設業界でもこういった事故から得た教訓を他人事と考えず
しっかりと学んでいかないといけません。
 
話を戻しまして、塗装店でももちろん価格競争は起こっております。
請け負った金額の中から足場の費用を出すと考えた場合に
確かに今の請負金額の水準では、1.2.に書いた事も実行することは
難しくなってまいります。
 
経済状況に合わせて「なんでもかんでも安く安く」と値下げをしていく
ことは安全面を考えた場合にも非常に危険であるし、職人も育ちません。
先ほどのバス業界の話でも人手不足とのことですが
確かに労働環境が悪いところで働きたいなどという人が
いるはずがありません。
建設現場でも職人達が気持ちよく働けないのであれば
人が減っていくのも当然です。
また、値引き交渉ばかりでは会社同士のお付き合いも
希薄になってしまいます。
4.その足場で作業している職人達の家族の気持ちまで考える
私が良い足場の定義は?と聞かれましたら
「登りやすい、降りやすい、移動しやすい、作業しやすい、
 台風がきても絶対倒れない」と答えます。
 
最近たまに見かけるのですが、足掛け部材がついてない足場で
作業することがあります。
職人をやってきてそれなりに歳を重ねていくと体に不具合が出てくることが
あります。
そういう時に足掛けがない足場だと登るのも降りるのも実は辛いのです。
 
また、年輩の職人がリーダーでやっている現場などでは
(こういう所が優しい)という良い足場に出会うこともあります。
もしかすると、足場には人の経験やら人柄が現れるのかなと感じる時も
あります。
「たかが足場、仕事が終わればなくなっちゃうもの」という方もいますが
作業してる職人には良い足場とは記憶に残るものです。

2.粉塵、溶剤対策、日頃のケアと心配り

1.職人を続けるなら自己管理が第一
塗装工事をしていると避けられないものが
粉塵と溶剤の臭い・汚染ですが、作業に従事する人は対策を取らなくては
長く職人はできないと思います。
 
まず、どんな仕事をする場合も必ず埃がたくさん舞っています。
塗り前のケレン清掃、Uカットの粉塵、カチオンの粉舞、
簡易マスクでもいいのでしていないと具合悪くなっても仕方ありません。
弱溶剤塗料を扱うときでも防毒マスクなり、簡易のものよりは
グレードの高いマスクをした方が良いです。
建設現場はオフィスワークとは違い、埃や有害物質が常につきまとう場所で
ありますから、そういった対策をしなくてはいけません。
 
また、皮膚に塗料がつく自体も当たり前と思ってはいけません。
よく見かけますが、皮膚についた塗料をシンナーで拭くのですが
シンナーよりは工業用石鹸で洗った方が良いです。
できれば作業前手洗い後などにクリームなどでケアしておいた方が
汚れも落ちやすく皮膚には優しいです。
2.結構臭う有機溶剤
塗装で溶剤の臭いが部屋に漂っているような場合は
扇風機やサーキュレーターを動かして
空気を攪拌して良い空気を取り込めるように工夫すると
臭いもだいぶ緩和されます。
 
特に外壁で溶剤を使用される場合に臭いがきついなと感じたならば、
二面ずつやるなどして遠くの窓を開け放して良い空気を取り込むなど
すると良いかと思います。
 
臭いについては個人差があるので、平気な方と平気でない方が
いるのは当然ですが、なるべく意識するよう心掛けた方が良いです。
3.動く前に柔軟をしよう
ゼネコン主体の現場は朝礼の時に体操をやると思いますが、
この時に私は他の人達の体の使い方というのを見るようにしています。
ちゃんと意識して体を動かしているなという方は
100人いたとして2~3人いるかいないかです。
 
たかがラジオ体操でも意識して一つ一つの動きを行った場合と
そうでない場合とでは伸びる部分・縮む部分もわからないし
効果が大きく変わります。
惰性でやらずにどちらにしても同じ3分として意識してやり続けていると
一年後に肩のコリがほぐれ、関節の可動範囲が広くなっていくように
感じます。
 
朝早く起きて、現場でいきなり動くと怪我の元になることも多いです。
しっかり体を柔らかくしてから働くことをおすすめします。
4.その恰好は強烈!
たまにではありますが
「現場は汚れ仕事だから」とペンキ、吹き付け塗材まみれの恰好で
歩いてる方を見かけますが、現場の外にそのまま出るのは
よろしくありません。
 
一度見かけた出来事ですが、
その現場で汚れた格好の人を子供達がアイコンタクトをとり
後ろから指差してニヤニヤと笑い合っていた事があります。
まぁ、子供達は特に悪気はなく、そういう事をしている自分達を
演出しているに過ぎないかもしれませんが、
このシーンを目撃してから私は意識を変えて、
作業中と休憩、ご飯を買いに行くときは作業着の様子を見て
明らかに汚れている場合は作業着を替えるタイミングとするように
なりました。
「どの位がきれいときたないの差か?」と聞かれましたら、
私は人の乗用車に乗るとき「お邪魔します」とサッと乗り込める位を
目安にしてます。
 
手もなるべく綺麗にしていないと買い物の際にお釣りを怪訝な顔で
渡されることもあるため、この辺りは意識して行動するようにと
心がけています。
 
建設従業者の常識とそれ以外の人の常識にはギャップがあるので
その辺りを意識していれば建設業界自体の好感度が上がると思います。