一人親方という労働形態

今から20年ぐらい前に、ある中小企業の社長さんが

「俺らはバブルの頃の金がいくらか残っているから
 お前らに多少優しくできるんだが、
 お前らの世代はバブルと縁のなかった最初から苦しいような会社で
 金(元手も)が少ないわけだから、
 キツイ現場も競争しての受注となり、
 そのような中で利益を上げて会社太らせていかないといけない。
 その時に大変になっちまうからその前になんとか手を打っとけよ!」と
教えていただいておりました。
 
この社長さんは団塊の世代の方でして
塗装店の2代目をやっており、とても面倒見の良い社長さんです。
 
この話を聞いた頃からすでに20年が過ぎましたが、
最近この言葉をよく思い出す自分がいます。
というのも、ここのところ色々な会社の職人さんの
お話を聞く機会があったのですが、
その職人さんたちの話を自分なりに分析してみると
結局、前述の社長さんの言っていたことは間違いなかったなと
感じます。
 
昨今の不景気で人を維持するのが厳しい会社では社員を雇えず、
どうしても人手が必要な場合には、いわゆる"応援(助っ人)"という
形をとる場合があります。
会社間で職人の貸し借りをする場合もありますが、
我々の業界で独特なものですと、"一人親方"という形の
働き方があります。
どこの会社にも属していない職人さんが
現場で1日いくらで契約して取引するというスタイルです。
一人親方というと聞こえは立派な感じもしますが
私が見たパターンでは、
会社の経営陣から「生き残るために協力してくれ!」ですとか
「共存するためにはこれしかないんだ!」といった感じでお願いされて、
仕方なく一人親方スタイルに変更された(させられた)方も
結構いらっしゃいます。
 
なぜ、会社が一人親方スタイルにさせるのか?
一つは社会保険(健康保険、労災保険、雇用保険)未加入者を
大きい現場に入れることは禁止であり、厳しくなっていること。
(会社側に職人さんの社会保険の会社負担分を支払う
 余裕がないということ)
もう一つは単純に不景気により工事金額自体が下がっていたり、
受注自体が減ってきたりで、このまま社員として雇うことが
不可能になってしまったというパターンが考えられます。
(細かく言えば他にも色々とありますが主な部分ですとこの辺りです)
 
自分達の請負現場を回すために職人を囲いはするけれど
社員から一人親方扱いにしてしまおうと、
「言うことを聞いてくれれば優先的に仕事は斡旋するよ。
 なんとか生活はできるだろ?みんなこれでやっているから
 頑張ろう!」といったスタンスの会社の話を
職人さん方からの話で耳にすることがあります。
(もちろん、以前からそういう会社はありましたが
 また増えてきている感じがします)
 
会社が一人親方を使うメリットとしては
福利厚生を見なくてよい、社会保険も見なくてよい、
退職金も賞与も当然見なくてもよい、
現場があるときだけ労働力として働かせることができるという点です。
こういった場合に怖いことの一つが、
万が一、現場で怪我をした時に会社側が
「一人親方だから自分でなんとかしてよ!」と言えてしまう
ということでもあり、現場で働く職人さん方には
本当に厳しい環境だなと思います。
職人側から見ると、どう考えても、現場を請けられる体制である
会社側が自分達ができるだけ不利にならないように
労働者集めをしているように見えてしまうことは否めません。
中には、日給で働いていた職人がおっしゃっていたのですが
「時給精算にされてしまうような気がする、
 14時上がりだと手間賃からさっぴかれるんだ」という話を
聞いたこともあります。
 
では、どうすればよいのか?
ここからは、職人として会社でうまく立ち回れないと
思っている方、なんか腑に落ちないという方に伝えたいことです。
(現状で上手くやれていると思う方は気にしないでください)
問題点として、ここのところ特に感じるのは、
塗装職人自体がコモディティ化してしまい代わりがきいてしまう、
さらに「安くて使いやすいのは他にいくらでもいる」などと
言われてしまうような仕事に質を求められない状況(現場)が
多くなってしまっているところにあるような気がします。
こうなってくると、結局は仕事を確保する能力のあるところが
力を持ち過ぎてしまい、会社と職人のパワーバランスは
大きく崩れてしまいます。
 
ですから、一つの策として、まずは代わりのきかない人になる
ということが重要です。
あえて代わりのきくところで自分を殺して必死に戦わなくても
「自分で考えて仕事を創り、確保して、納められる」ように
していくことが大事です。
また、その際には「必ずやろう、できる」と信じて
行動することも大事です。
この思いと行動だけが自分を唯一変えてくれる起爆剤だと
私は信じています。
 
自分でしっかりもがいて苦しんで抜け出すことが
幸せへのいちばんの近道であるし、
こういった経験を積むことは決して無駄にはならないと信じて
私も行動していきたいです。